それはあまりに唐突な、そして突然すぎる、衝撃を伴った出会いだった。

「グハハハハハハッ! 近頃お前たちのような輩が、小賢しくも俺様の領域にのさばっているようだからな! よい見せしめになるわっ!」
 哄笑するガーゴイルロード。そんな奴の前に俺の仲間、ドワーフのシヴィルがガーゴイルに足を掴まれ、高々と持ち上げられる。
 纏っていた鎧は原型が分からないほどズタボロに砕かれ、掴まれている右足の他は力無くだらりと垂れ下がっているその様は、まさに糸が切れた人形のようだ。
「シヴィル!」
 彼女の古くからの相棒で、俺たちの中では唯一の神官、エルフのルフィアが切羽詰まった声を上げた。
 助けるつもりだろう。焼けた砂を蹴ってガーゴイルに向かう。
 が、その行く手を別のガーゴイルが強風を伴って遮る。
「ルフィア! いけない!」
 召還獣を操って戦っていた魔術師のアルトが、そう叫んだときには、すでに遅かった。
「きゃあっ!」
 細いルフィアの体が、まるで小枝を弾いたように軽々と吹き飛び、真紅の液体が残照のようにその軌跡を描く。
 鈍い音を立てて砂塵が舞い上がった。
「ギャギャギャッ!」
 ガーゴイルが不気味な声を上げながら、砂丘に落ちたルフィアにのしかかる。耳を覆いたくなるような残酷な音が、砂塵の舞う大地に響いた。
 ルフィアの悲鳴はもう聞こえない。
「うわぁーっ!」
 ただ1人だけ立っているアルトが、錯乱したような声を上げた。
 恐怖が限界に達したのだろう。
 彼の蒼白な顔を見て、俺は以前、話せる島の遺跡で逃げ回った時のことを思い出した。
 マナを練ることも、呪文を詠唱することも忘れて立ち尽くすアルトに、さらに別にガーゴイルが襲いかかった。
 人間の頭なら軽く握りつぶしてしまいそうな、巨大で凶暴な爪を備えたガーゴイルの手が、今にもアルトを引き裂こうとしたその時、彼の召還獣がその前に飛び出した。
「ニャアァァァァァァァッ!」
 甲高い鳴き声とともに、召還獣の真っ白い体毛が真っ赤に染まる。そしてボールのようにぽーんと跳ねて、砂の上に倒れ落ちた。
「キャット!」
 召還獣の声でアルトが我に返ったその瞬間、彼自身もガーゴイルの爪に引き裂かれて、ボロ切れのように宙を舞った。

 全てが一瞬の出来事──。
 一秒単位で仲間を引き裂かれ、倒された。
 だが例え彼らがもう少し粘っていたとしても、俺にはどうすることもできなかった。
 彼らを守るはずの、騎士である俺は、真っ先に奴らに叩きのめされ、自分が流した血の海に浸かっているのだから……。
「ヒューマンの戦士よ! 仲間が殺されていくのを見るのはどうだ? 力がないというのは、悲しいものよなぁ!」
「くっそぉおおおおおおおおおっ!」
 俺は叫びながらもう一度立ち上がろうと、全身に力を入れたつもりだった。だが、声の代わりに口から吐き出されたのは血が濁った音を発し、手足にはまるで力が入らないばかりか、感覚そのものが全くなくなっていた。
 奴の言うとおり、今ほど自分の無力さを感じたことはなかった……。人を守るために騎士の道を選んだというのに、こんなときに何もできないなんて……!
 神よ……。アインハザードよ……騎士として、人の子として、あなたに敬虔な忠誠を尽くす俺たちに、あなたは何の手助けもしてくれないというのか!
 今ならば、グランカインでも誰でもいい! 俺に力を! みんなを助けられる力を、俺に与えてくれ!

 ──心の底からそう願った、そのときだった。

 ピシャッ──ッガガガァーンッッッ!!
 閃光が走り、天を裂くような雷鳴が轟き、そして地を震わす衝撃が辺りを襲った。
「ギェェェェェェェッ!?」
 シヴィルを掴んでいたガーゴイルが稲妻に貫かれ、凄まじい声を上げる。俺が初めて聞いた奴らの悲鳴だ。
 そして一瞬、空中で静止したかと思うと、力を失ったように地面に墜落した。
 主であるガーゴイルロードを始め、他のガーゴイルたちも一斉に動きを止めて振り返り、驚愕に目を見開く。
「な、何事だっ!?」
 ガーゴイルロードがそう叫んだか否かの間に、次の悲鳴が上がる。
 瀕死のルフィアをいたぶっていたガーゴイルが、首筋からまるで噴水のように液体(おそらく奴らの血だろう)を噴き出し、絶叫を上げながら仰け反った。
「ばっ──!?」
 狼狽するガーゴイルロード。
 心境は俺も同じだ。何が起こっているのか、全く分からない。
 しかし俺たちにはそれを理解する時間も、狼狽える間すら与えられなかった。
A disgusting thing. Carry and give me his person's blood
 低く澄んだ声が辺りに流れたかと思うと、残っていた1匹のガーゴイルが苦しげな呻く。その巨体から赤い光の球が、まるで引き抜かれるように飛び出し、それとほとんど同時に、どこからか鮮やかなピンク色の光を放つ小さな物体が出現し、ガーゴイルの頭上で一際大きく輝いた。
「グギェエエエエエエッ!?」
 ガーゴイルの全身を毒性の霧が包み込み、石のようなその灰色の皮膚が、見る見るうちに紫色に変わっていく。今度こそ、ガーゴイルは悲鳴を上げた。
 先の2匹と同じく、飛翔する力を失って墜落し、砂上を苦しげに転げ回る回るガーゴイル。毒のためか、その翼がぐずぐずと崩れていく。
「な、なんだこれは! 何が起きている!?」
 瞬く間に部下を無力化され、ガーゴイルロードが我を失ったようにそう叫んだ。
 その時、血を噴き出して苦しんでいたガーゴイルの首が、一閃のもとに跳ね飛ばされた。
 そして噴き上がる血煙を洗い流すように、一陣の風が戦場を吹き抜ける。
 ──刹那の静寂が訪れた。
 舞い上がる砂のカーテンの向こう、崩れ落ちる首を失ったガーゴイルの巨体の傍らに、ひとつの細い人影。真横に振り抜いた剣が、小さくきらりと光る。
「何者だ!」
 ガーゴイルロードの吠えるような誰何の声。
 それに呼応するように、再び強い風が吹き抜けた。
 かき消されるように払われる砂塵。一気に開ける視界。

 そこに、長い白銀の髪が透き通るような輝きを見せて翻った。

 細身だが、女性的特徴を誇示するような体を覆う、白い甲冑。右手に構えられた長剣は魔力を帯びて輝き、どこかの女神を象った紋章が刻まれている盾が陽光を反射して銀色の光を放つ。
「貴様はっ……!?」
 その姿に、ガーゴイルロードはもとより、俺も目を見張って驚いた。
 一流の芸術品のごとく整えられた、神秘的に美しい顔立ち。風に流れる髪の間から覗く、長く尖った耳。そしてそれらを包む、月光ような青褐色の肌。
「ダークエルフ!」
 俺の思考とガーゴイルロードの声が重なった。
 ダークエルフの紫闇の瞳が、凛とした光を放つ。
「お初にお目にかかります。ガーゴイルロード=シロッコ」

 ──それはあまりに唐突な、そして突然すぎる、衝撃を伴った出会いだった。

「私の名はフレイド。『私によく似たエルフ』をご存じありませんか?」

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