どうやらジェナヴィスたち四人も、グルーディオ城主の『行方不明者捜索隊募集』に乗って、件の荒地にいたということらしい。
 あの後。
 感極まったルフィアが、シヴィルと二人で先に部屋へ戻るだとか、それを止めようとしたジェナヴィスが巧みにからかわれたりだとか、逆にルフィアから「いっそのこと、アルトくんと二人で部屋に戻れば?」などと言われて暴れ始めるだとか、紆余曲折はあったものの、今は何とか落ち着いて、六人で一つのテーブルを囲んでいた。
 一番の被害者は、何の関係もないはずのフレイドとネストであった。
「疲れた……」
 テーブルに上半身を預けるようにして、突っ伏しているネスト。肉体的にではなく、精神的にここまで追い詰められたのは、かなり久しぶりの経験である。
 何が辛いと言えば、騒動の間中、周囲から好奇の視線を向けられていたことだろうか。
 フレイドの方は些か余裕があるものの、やはり心的疲労は隠しきれない。
 ようやく彼らの話を聞き終わって、ため息を一つ。
「状況は、よく解りました。しかし、私たちにそれをお話ししてもらっても、情報交換などは期待できないと思います。私たちの方でも、手がかりを持っているわけではありませんから」
 ジェナヴィスたちがわざわざ自分たちのことを話したのは、同じ事件に関わっている者として、情報交換などの相互協力を期待してのことだろう、とフレイドは考えている。
 冒険者同士では、よくあることだ。
 自分たちとしてもそれは望むところだが、生憎と彼らも自分たちも、持っている情報は同じ程度であると言える。これでは今のところ、手を組むメリットは少ない。
 しかしそれはフレイドの分析であって、ジェナヴィスたちの思惑ではない。
 だからジェナヴィスは、ここぞとばかりに身を乗り出した。
「ですから、これから協力しませんか? お互いに情報を集めて、それを今後も交換し合うという感じで」
「これだけ手がかりが無く、漠然とした事件です。人手は多い方が、解決には有利になると思います」
 アルトも理のある言葉で友人を援護する。
 そしてこの件に関しては、ルフィアも納得済みであった。
「そうそう。手広く情報集めてればさ、何か一つくらい引っ掛かるかもしれないでしょ」
「ドワーフの情報網も使える」
 シヴィルが言ったことは、フレイドにも魅力的な提案に思えた。
 ふと視線を落として、思案してみる。
 その間に、何気なく隣の義姉に話し掛けた。
「どう思います、ネスト?」
「理にはかなっておるな〜。しかし戦闘力では、あてにならんぞ〜」
「戦闘力……」
 ちらりとジェナヴィスたちに視線を戻す。
 言われた本人たちは、それを肯定するかのように、思い思いに苦笑を浮かべたり視線を逸らしたりしている。
「戦いになるとは限りませんけど……」
「自分たちの身くらいなら、自分たちで守れます!」
 ただ一人、ジェナヴィスだけはそう言い切った。
「たしかに、お二人に比べれば頼りないでしょうけど、それでも俺たちだって冒険者やってきたんです。大丈夫ですよ!」
「まあ……あのガーゴイルみたいなのじゃなければねー」
 と、一応、相づちらしいものを打ったのはルフィア。自嘲気味な苦笑いを浮かべながら、フレイドたちに肩をすくめてみせる。
「ああいうのは、あんたたちに任せるわ。あたしらのことは、露払いくらいに思っといていいわよ。実際、今はその程度の実力だし」
「露払い、になればいいけどね」
 苦笑して付け加えたアルトに、ジェナヴィスとルフィアは一瞬、怯むように言葉を詰まらせた。
 そこまで自信がないのかと言われれば、正直、フレイドたちの戦闘力を目の当たりにさせられれば、素直に頷かざるを得なくなる。直接には見ていないルフィアやアルトにしても、対した相手の強大さを思えば、それは同じことだ。
 そんな彼らの反応に、フレイドは苦笑を漏らした。
「わかりました。この件に関しては、共に協力し合いましょう。情報収集だけではなく、この戦いの全てにおいて」
 その言葉に、ジェナヴィスたちの顔が輝く。
 その中でアルトだけは、不思議そうに首を傾げていた。
「この件に関して……?」
 フレイドの奇妙な物言いが引っ掛かった。
 自分たち全員が関わっていることに「他の件」などはないはずなのに、わざわざそういう言い方をするのは、何故だろうか。無意識に口から出た言葉のように思える。
 ならば……
「他にも何かあるんですか?」
「え?」
 アルトの質問に、不意を突かれたようにフレイドは振り向く。
「さっき『この件は』って。それに『この戦い』とも言いましたよね? 何か他に動いていることがあるんですか?」
「え……」
「む?」
 思ったことをそのままに質問をするアルトに、フレイドのみならず、ネストも突っ伏していた顔を上げて驚きを表す。
(幼く見えるわりに、鋭いガキだ)
「……」
 同じことを考えたのか、それとも答えに窮しているのか、フレイドもアルトを見つめたまま目を丸くしている。
 そんなところに追い打ちを掛けるかのように、ジェナヴィスがハッとして顔を上げた。
「そういえば、『エルフを探している』とか」
 ──!?
 フレイドは今度こそ驚愕の表情を見せ、ネストは怒りにも似た面持ちで立ち上がった。
「なぜそのことを知っておるっ!」
 バンッ! とテーブルを叩く激しい音が、再び店内に響き渡る。
 しかし、今回はその音に他の客たちが振り向くことはなかった。
 なぜなら、同時に轟いた外からの衝撃音と入り交じってしまったからだ。
 ざわめいていた店内が一瞬、静まり返る。
「始まったぞ!」
 誰かが発したその声を皮切りに、再び店内がざわつき始める。
 それは喝采であったり、無闇な野次であったり、また不安げな声であったりした。
 彼らの視線は、窓から見える店の外。グルーディオ城がある方角へと向けられていた。
「……攻城戦が始まったようですね」
 一息を吐いて、フレイドが言う。そしてジェナヴィスに視線を向けた。
「あの時、私がガーゴイルロードに訊ねた言葉を聞いていたのですね。意識を失っていると思っていましたけれど」
「は、はい……」
 そのフレイドの言葉に、ネストも得心したように怒りを収める。しかし、不快感までは収めていない。
 そんな義姉の態度には構わず、フレイドはすっかりネストの気に呑まれて硬直してしまっている4人の若者に、柔らかく微笑みかけた。
「そうです。私は『私によく似たエルフ』を探すために、旅をしています」
 再び息を呑む、ジェナヴィスたち。
 言葉の意味するところは解らないし、ダークエルフとエルフが似ているなどということが、本当にあるのかも分からない。しかし、何か重大なことを聞かされているということだけは、直感的に理解できた。
 攻城戦で盛り上がる酒場の喧噪をよそに、フレイドの声は静かだがはっきりと耳に入ってくる。
「似ていると言っても、顔が似ているのか、それとも雰囲気がそうなのか……私にも分かりません。私も『彼女』には、会ったことがないのです」
「え? それは……」
 どういう意味だ?
 一同の心の声を代表するように、ジェナヴィスが首を傾げる。
 会ったことがないのに「彼女」と断定している。会ったこともないのに「似ている」という。そして何より、その相手が存在していると確信している。
 ジェナヴィスたちには解らないことだらけだった。
 そんな彼らの心情を見透かしてか、フレイドは再びにこりと微笑むと、人差し指を自分の唇に当てるようにして、こう言った。
「このことは、他言無用に願いますね。『彼女』は……」
 再び、外から衝撃音がした。今度は離れているはずのこの建物まで振動するほどの轟音が。
「『彼女』はおそらく、私の実の『姉』です」

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