「かかれっ」
 静かに、しかし荘厳なる威厳を持って、アシャキエルが開いた右手を振り下ろす。彼に従う百を数える天使たちが、一斉にその翼を開き、地上を這いずるような生命に襲い掛かっていく。
 だがその生命は、這いずるだけの存在ではなかった。
「ケーボル様、参上ぉっ! 待たせたな、哀れな下僕ども!」
 飛来する天使たちの正面に立ち、オーク族の若者が名乗りと気炎を上げる。
 やけに豪奢なローブをまとい、ヒューマンであれば両手で持つのも苦労しそうなほど、長大で重厚な杖を右手に持つその若者の出現に、彼の後ろに立つことになってしまったベアトリクスとヴァンフォートが顔を引きつらせる。
「私に任せておけば、もぉ〜安心だ! 理不尽を刃という正義で通すニセ天使どもなど、知的で高貴で顔まで良い、この私の術でこてんぱんにしてくれる! くらえぇーいっ!」
 まくし立てるやいなや、杖を振りかざし、向かい来る天使の群れに魔法を浴びせた。それは数十体の天使に毒の刻印を降り注ぎ──
「……おや?」
 羽ばたきを止めることなく、天使たちはケーボルに向かって降下してくる。彼の魔法は天使たちに全く通用していなかった。
「ご、ごめんなさいっ! 嘘です! 冗談です! 出来心だったんです!」
 剣を突き出して迫る天使の群れを前に、ケーボルは情けない声を上げながらベアトリクスの後ろに隠れる。彼女とヴァンフォートの視線がたちまち冷たいものへと変わった。
「何しに来たんですの……」
「まったくっス……」
「そ、そんな冷たいこと言わないでくださいよ! 仲間じゃないですか、私たち! ほら、早く助けて!」
 ヒューマンの少女の影に隠れてわめくオーク族の男に、二人が渋々と武器を構えた、その時だった。
 ──ドゴォッ!
 一陣の風が頬を撫でたかと思うと、目前まで迫っていた天使たちが破砕音と共に大きく吹き飛ぶ。
「不肖の弟子め。少しは修練を積んできたかと思えば、そのざまか」
「……本当に不肖ですね」
 射抜くような跳び蹴りで天使を鎧ごと吹き散らしたアドエンと、旋風のごとき拳で天使の頭蓋を砕いたゴーンガッドが、共に呆れたような表情を浮かべていた。
「おお、師匠っ!」
 ケーボルが喜悦の声と顔で立ち上がる。
 さらに、
「ぼうっとしていちゃダメですよ、ベティ。私たちの役目は、いち早い仲間の援護です」
「前衛はボクたちが務めるから、フォローはよろしくっ」
 手にしていたメイスを杖へと持ち替えながら、冷静な瞳を天使たちに向けるプリシラと、大剣を肩に担ぎながら爽快な笑みを浮かべるファイスが、ベアトリクスの両脇に並んだ。
「プリシラ先輩!? ファイス先輩も!」
 後見を引き受けてくれている小さな先輩二人の出現に、思わず彼女も眼鏡の奥の瞳を丸くする。
 そして──
「敵は引き受ける。撃破を優先しろ」
 影のように音もなく、ユーウェインが彼らの前へと踏み出した。
「まさかセンパイまで来るなんて、思わなかったっスよ」
 ヴァンフォートは乱れた自分の髪を直すようにしながら、軽い調子の笑みを浮かべる。ユーウェインは冷淡な瞳を向けた。
「最低限の責務を果たしに来ただけだ。貴様も役割は果たせ」
 それだけを言うと、態勢を立て直し始めた天使たちへと視線を戻し、剣を抜く。
 相変わらず突き放したような態度の後見人に、ヴァンフォートは苦笑しながら肩をすくめる。
「やれるだけはやるっスよ」
 彼が自分の弓に矢をつがえ、ベアトリクスとケーボルが呪文を唱え始めた時には、すでに彼らの後見人たちによって、戦いの火蓋が切られていた。

「残った者たちで総攻撃じゃ! スワンプ隊を前へ出せ! 天使どもを取り囲み、袋叩きにしてやるのじゃ!」
『ははっ!』
 長老パナセンの強力な防御魔法によって難を逃れたクロキアンたちが、声を揃え、武器を掲げて応える。
 彼らのうちで攻撃魔法を操る者たちが天使の翼を撃ち抜き、あるいは地上近くに縛り付け、飛べなくなったところを戦士たちが囲んで斬りつけていく。
 それは巨獣に挑む蟻の戦法であり、この場合は最も有効であると言えた。
「なんだ? クロキアンと共同戦線か?」
 一人の冒険者の戦士が、パナセンの横を駆け抜けながら目を丸くする。
「む? なんじゃ、おぬしら?」
 御輿の上から振り向いたパナセンは、自分の横を通り過ぎていく何人もの冒険者たちに問い掛ける。
 槍を担いでえっちらおっちらと走っていくドワーフの男が顔を上げ、髭の下から歯を覗かせて笑った。
「呼ばれたんだよ。妙な『声』にな」
「わしゃ呼んどらんぞい」
「あなたではないでしょうね。女性の声でしたから」
 自らの肢体を誇るようなローブに身を包んだダークエルフの女性が、擦れ違いざまにそう言う。
「……女じゃと?」
 首を傾げるパナセンの両脇を、様々な種族、様々な年齢、様々な姿をした冒険者たちが駆け抜けていく。
「アリスたち、俺らの出番残しといてくれっかなぁ」
「もう始まってる! 私たちも続くわよ!」
「いそげいそげー♪」
「おい! まだ強化魔法が掛け終わってない! 待てよ!」
「戦いながらやれ。我が種族なら、赤子でもやれることだ」
「あ、プリシラさんはっけーん! 彼女は俺が守るぜ!」
「じゃあ俺は、ファイスたんにハァハァしとくぜ!」
「……おまえら、真面目にやる気があるか?」
 次々に通り過ぎ、戦いへと加わっていく冒険者たちに、御輿を担ぐクロキアンたちも目を白黒させた。
「ちょ、長老!? これはいったい……」
「──うむ」
 しばし両目を閉じ、瞑想するかのように静かな雰囲気を纏わせたパナセンは、一つうなずいたかと思うと、その両目をカッと開く。
「冒険者どもにばかりいい格好はさせておけんということじゃ! わしも前へ出るぞ!」
『御意ッ!』
 声を揃えたクロキアンたちによって、パナセンもまた、戦場へと駆ける冒険者の一団に加わる。
 各地から駆け付けた数十人の冒険者たちと、パナセン率いるクロキアン軍団が天使たちを圧倒し始めるのに、それほど時間は掛からなかった。
「なんか知らんが、わし絶好調ぉーッ!」
「補正でも入りましたかね?」



 駆け付けた冒険者たちと、パナセンたちクロキアンが、天使の群れと激しい戦いを展開している。冒険者のほとんどは同宿の者たちだが、中には知人や血盟員を引き連れてきている者もいるらしく、その数はあの宿に入りきるものではなくなっていた。
 何がどうしてこうなったのかは解らなかったが、自分たちが有利な状況であることは、アレクシスにもよく解る。
 だが、それなのに尚、頭上から見下ろしてくる天使、アシャキエルからは、動揺した気配を感じられない。そのことに不気味さを覚える。
 それはおそらく、彼一人で自分たちを殲滅できるという自信と余裕、そしてその力を持っているからだろう。
 対峙しているアリシアリスやエアルフリードも、フロウティアを庇った際に武具を破損させられ、万全の状態ではなかった。
 先ほどの攻撃をもう一度防ぐことはできないだろう──。そのことはアリスたちも理解しているのか、頬に冷や汗をつたわせている。
(どうする……?)
 全体では勝っていても、アシャキエル一人で逆転されてしまう状況に、アレクシスも思わずシィを抱える腕に力を込めてしまった。
「だいじょうぶ。あれくは、しぃがまもる」
 不安が伝わったのか、腕の中のシィがぎゅむりとアレクシスに抱きついてくる。アレクシスは思わず苦笑を漏らした。
「ばーか。そりゃ逆だろ。おまえは俺が──」
「そう悲観的になることもないわ」
 唐突に治癒の光が二人を包み込み、驚いて振り向いたアレクシスの前に、セーラとカノンを連れたシアンが歩いてきた。婉然とした微笑みを浮かべながら。
「こちらには『女神様』が付いているからね」
「女神……?」
 近付いてきたセーラとカノンにシィを預けながら、シアンの言葉に首を傾げるアレクシス。その耳に、風を切るような音が聞こえた。
「そういうことだ!」
 シアンの後ろからさらに二つの人影が飛び出し、上空のアシャキエルへと向かう。
「──おまえたちは!?」
 その姿を見たアシャキエルに、初めて動揺らしい動揺が走った。
 地を蹴り、天使の眼前へと跳び上がった二人の戦士──セリオンとメリスが、その剣を鋭く振り下ろす。
「神に反しているのは貴様の方だ! アシャキエル!」
「女神様は『助けて』って言ってたよ!」
 ギャリンッ! アシャキエルの右手に出現した剣が二人の剣と噛み合い、激しく火花を散らせる。
「ぬぅっ!?」
 アシャキエルはその顔に焦りの色を見せ、飛行する術を持たない二人はそのまま地面へと着地した。
 セリオンたちの言葉とアシャキエルの態度に、アレクシスはわけが分からず再びシアンに振り向く。
「どういうことだ!?」
「猟師の村でのカブリオたちと同じように、しぃちゃんの気配を感じて、独断で動いたのね。『大洋の炎』といえば、パプリオン嫌いで有名な天使よ。大方、しぃちゃんを消すことで、少しでも溜飲を下げようって魂胆じゃないのかしら?」
 不敵に微笑み、流すような鋭い視線をアシャキエルへと向けながら、シアンは答えた。
 アシャキエルの浮かべる動揺が、さらに大きくなる。追い打ちを掛けるようにシアンは続けた。
「最初はあの『声』、しぃちゃんのお母さんかもしれないと思ったけれど……『水の気配』が感じられるものだったわね」
「くっ……!? 馬鹿なッ!」
 その言葉に、ついにアシャキエルは激昂したような声を上げ、剣に炎を宿らせる。
 彼自身は気が付いていないだろうが、その行動がアレクシスたちに、シアンの言葉を真実として伝えることになっていた。
「つまり、私怨ということね……呆れた」
「ま、天使なんて言っても、そんなもんでしょ」
 アリシアリスは溜息を吐き、エアルフリードも肩をすくめる。そしてフロウティアは、
「なんという理不尽……」
 本気の怒りを面に表していた。
 その表情は、アリスたちですら思わず引いてしまうほど。
「黙れっ! シーレンの魂など、この世にあってならぬものなのだ!」
 動揺したアシャキエルが叫ぶようにそう言い、剣に宿した炎をシィに向けて放つ。
 まるで破れかぶれなその行動に、誰もが一瞬、目を見開いたその時、
「見苦しいですよ! 神の使徒ともあろう者が!」
 エルフの神官がシィたちの前に立ち、魔法の障壁でそれを弾いた。
「まったくだ。すでに形勢は逆転していることが、解らないのか?」
 さらに続いた別の声と共に、今度は炎の弾がアシャキエルに直撃した。それは天使の放つ『聖なる炎』とは違い、茜色に燃え盛る、現実の火の塊である。
「ぬぅっ!?」
 さすがにその奇襲にはアシャキエルも一瞬の怯みを見せ、己の体を焼く炎を、四枚の翼を翻して掻き消した。
「……背教者どもがっ!」
 怒りに染まる天使の瞳が、地上を見下ろす。
 その視線を、エルフの神官の前に立った人物が、両手鎚を地面に突き立てるようにして受け止めた。
「違いますっ! 私たちは、血よりも強い絆で結ばれた、仲間です!」
 小さなポエットが胸を張るようにしてそう言い、アレクシスを囲むようにライとリシャールが並ぶ。
「おまえら……!」
 目を丸くして三人を見つめるアレクシスとシィ。三人はそれぞれに振り向いて、彼らに笑顔を向けた。
「……でも。ポエット、何もしてねぇよな?」
「ああ。美味しいところだけ持っていった」
「まあまあ。相手が空にいるわけだし」
「みんな酷いですよぅ!?」
 的確なアレクシスの突っ込みに、ライがうなずき、リシャールが宥め、ポエットは顔に縦線を入れて驚愕する。
 この非常時でも、普段と変わらないやりとりを見せる後輩たちに、アリシアリスは小さく息を吐くように笑った。
「──さあ。役者は揃ったようね」

 焦りと動揺を隠せないアシャキエルを見上げ、セリオンとメリスは視線を交わしてうなずき合う。
「いくぞっ!」
 気勢を上げ、再び地を蹴り跳んだセリオンに、アシャキエルが慌てて振り向く。
「翼を持たぬ、おまえたちなど──!?」
 四枚の翼を羽ばたかせ、迫るセリオンの軌道をかわそうと飛ぶアシャキエルだったが、そのセリオンの背後から飛び出した影に目を見開く。
「甘いよっ!」
 ──ザザンッ!
 横飛びのように追い掛けたメリスの双剣が閃き、アシャキエルの胴を十字に切り裂いた。彼女はセリオンと共に跳び上がり、彼の背を蹴るようにしてその軌道を変えたのだ。
 四翼の天使は鎧と羽を散らしながら、斬られた勢いで落下していく。
「ぐぅ……だが所詮はッ!」
 その態勢でも尚、剣に宿した炎をセリオンとメリスに向けて放つだけの力がある。空中では自由に動けない二人は、それをまともに浴びてしまう。
「くっ! さすがにっ!」
「けど、まだっ!」
 炎の焼かれながら落ちる二人を、フロウティアの治癒魔法が包み込む。
 瞬く間に傷が癒えた二人が無事に着地した頃、今度はアシャキエルがライの魔法によって炎に包まれていた。
「ヒューマンごときの魔力で……っ!」
「まずはその邪魔な翼を消させてもらう!」
 空中で体勢を戻そうとしていたところに浴びせたその魔法は、先ほどよりも強力なものではあったが、再び翼の一閃で掻き消されてしまう。
「見くびるな! その程度の炎では、私の羽一枚、焼くことはできん!」
「ならば、燃えるまで撃つだけだ!」
「小賢しいッ!」
 再び呪文を唱え始めたライを狙い、アシャキエルが剣を構えて急降下する。その速度は呪文を唱え終わるよりも速いと思われたが、あまりに直線的すぎた。
「かっとべーっ!」
 ライの正面に回り込んだポエットが、アシャキエルの接近に合わせて、両手鎚を大きく振りかぶっていたのだ。
「なにっ!?」
「どかーんっ!」
 咄嗟に左腕に盾を出現させ、防御しようとしたアシャキエルだったが、力強く振り回された鎚の勢いを殺すことはできず、大きく横に吹き飛ばされてしまう。
 そしてそこには、アレクシスが待ち構えていた。
「やっとてめぇに一撃入れられるぜ」
 逆手に構えた短剣越しに天使を睨み付け、放たれる矢のように地を蹴る。そしてアシャキエルが地面に激突する寸前、擦れ違うようにしてその首根を切り裂いた。
「ぐあああああっ!?」
 土煙を上げながら、アシャキエルは大地に落ちる。しかし、まだ倒したわけではない。
「しぃちゃんは私たちが見てるから、思いっきりやりなさいよっ」
 シィを抱き上げたエアルフリードがそう言い、隣でアリスも大きくうなずく。
 アレクシスは肩越しに振り向いて、いつものように明るい笑みを見せた。
「ああっ!」
 そして、アシャキエルが再び空に舞い上がる。砕かれた鎧と傷ついた羽を散らし、切り裂かれた首元からは血を溢れさせながら、それでも尚、衰えぬ魔力と、冒険者たちに対する怒りを背負いながら。
「焼き尽くしてくれる! 全てをッ!」
 その全身が輝くように炎を発し始めたその時、エアルフリードに抱えられているシィがぽつりと呟いた。
「ころさせない」
 刹那、世界中の時が止まったかのような静寂が、戦場を包み込む。そしてそれは不可視の力となって、アシャキエルに収束していった。
「──っ!?」
 全身にまとっていた炎が風にさらわれるように消え、アシャキエルは言葉を失う。それは魔力を封じられたことを意味し、彼は驚愕の視線を地上のシィへと向ける。
「……馬鹿なッ!?」
 自分を見つめるシィの蒼い瞳を見つけたとき、天空から放たれた雷が彼の体を貫いていた。
「ぐぁああああああああああっ!!」
 雷は翼を焼き、五体を弾けさせるような衝撃を与え、アシャキエルは絶叫と共に再び大地に落ちる。
 だがその雷は誰が唱えた魔法でもなく、またシィの力でもなかったため、アレクシスたちは目を丸くしてそれを見つめていた。
「何が起こったんだ!?」
「しぃもしらない」
 ふるふると首を横に振ったシィだったが、ふと何かに気が付いたように、ある方角に振り向く。
「けど、これで……」
 墜落したアシャキエルを見つめ、ライが戦闘態勢を解こうとしたその時、翼を失った天使はゆっくりと立ち上がった。
「まだだ……シーレンに連なる者は……何としても……」
 焼け焦げた翼は崩れ落ち、纏っていた白い鎧も黒い煤と亀裂に覆われながら、それでも剣をシィに向け、怨嗟に満ちた瞳で睨み据えてくるアシャキエル。その鬼気迫る姿には、アリスたちですら戦慄を覚えた。
「凄まじい執念ね……」
 シアンが息を飲むようにして呟く。
 ──だが、しかし。
「妄執は正しき心を曇らせます! いちからやり直してきてください!」
 リシャールが杖を突きつけながらそう言い、
「まあ、天使にも色んなタイプがいるってことだろうな」
 ライは杖で肩を叩くようにしながら溜息を吐き、
「根性とかは好きですけど、恨みとかは感心しませんねー」
 ポエットに至っては、人差し指を立てながら諭すような表情をアシャキエルに向けた。
 これにはさすがに、アリスたち先輩冒険者も、唖然とした顔で彼らを見つめる。
 アレクシスは同僚たちの言葉に、小さく笑った。
「……だとさ。しつこいのは嫌われるぜ?」
 片膝を付き、立てた右膝に短剣を握った右手を乗せるように構える。
 アシャキエルの瞳がアレクシスへと向けられた。
「貴様……貴様さえ……なぜ……」
「さぁな。シィが見つけちまったのが、俺だったってだけの話だ」
 そして弾丸が飛び出すように地を蹴ったアレクシスの短剣が、アシャキエルの胸を深々と貫いていた。

「良かったのかい? 『妹』に会わずに」
 戦場を見下ろす丘の上で、フラウディアは傍らのダークエルフに笑みを向けながら問い掛ける。
「ええ。今はまだ、嫌われているでしょうから」
 くすくすと笑いながら、ダークエルフの女性騎士──フレイドは答える。
「これくらいの手助けで、満足しておきます」
 その瞳は、遠く小さく見えるシィを優しく見つめていた。
 彼女の隣から、義姉のネストが顔を覗かせ、逆にフラウディアに訊ねる。
「おまえこそ良かったのか? 久しぶりに妹に会ったのだろう?」
「ああ……」
 フラウディアも戦場に視線を向け、愛する妹を見つめた。
「私がそばにいる必要は、もう無いだろうからね」
 仲間に囲まれるフロウティアを見つめるその瞳は、やはりとても優しい。
 そんなフラウディアとフレイドを見比べ、ネストは肩をすくめる。
「やれやれ。いつの間にか『姉』ばかりではないか」
 その言葉に二人は破顔し、フレイドはさらにその顔を南に見える海へと向ける。
「それでは、もう一人の『姉』を迎えに行きましょうか」
 そして三人は戦場に背を向け、次の戦いへと足を踏み出すのだった。
「どうした、シィ?」
 遠くを見つめているようなシィに気が付いて、アレクシスはその小さな頭を撫でながら問い掛ける。
「おねえちゃん……」
 そんな三人を、少女の蒼い瞳だけが見送っていた。

第13話へ
 
 

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