アインハザードの恵みである陽光が、頂点から投げ掛けられる中、旅支度を調えたアレクシスとシィが、宿の前で仲間たちの見送りを受けていた。 「困ったことがあれば、いつでも連絡をしてこいよ」 「しぃちゃんも、元気でね」 セリオンとメリスを筆頭に、次々と別れの言葉を掛けられる。 「しぃちゃん……う゛ゆっ、う゛ゆっ……また、いつでも……う゛ゆっ」 「かのん。なかないで」 中でもカノンは大泣きしてしまい、エアルフリードが宥めても収まらないほどであった。 一方でアレクシスの方も、意外な事態が起きて、目を白黒させている。 「僕も同行させてもらうよ! エヴァ様の思し召しだからねっ」 荷物をいっぱいに詰め込んだバックパックを背負い、鼻息も荒く宣言するリシャール。どうやら先日の『声』の願いを、今後も実行していくものだと思い込んでいるらしい。 「貴方たちだけだと、しぃちゃんのことが心配だから、私もついていってあげるわ」 旅装に身を包んだシアンもそう言って、見送られる側に回ってきた。 「私がこの血盟に入ったのも、この時のためという気がするの」 「ああ……そっすか……」 隣に立って艶っぽく微笑むシアンに、アレクシスは片手で頭を抱えながら答える。 そしてシィは、さっそくそんなシアンに両手を伸ばしていた。 「しあん。だっこ、だっこ」 「はいはい。──リシャール。しぃちゃんの荷物をお願い」 「お任せくださいっ!」 シアンに抱き上げられたシィが、自分の荷物を持ってくれたリシャールの頭を、手のひらでぺちぺちと叩く。褒めているつもりらしい。 そんな様子に再び頭を抱え、溜息まで吐くアレクシスに、アリシアリスから血盟シンボルの入ったバンダナが投げ渡される。 「しぃちゃんの分よ。持っていきなさい」 「え……でも俺ら、血盟から抜けて……」 「あたしは許可した憶えはないわよ。うちは人数少ないんだから、勝手に抜けられても困るのよ」 目を釣り上げながら、少しだけ照れたように顔を赤くして、小さな盟主がそう言う。 思わず苦笑したアレクシスやシアンに続いて、仲間たちが笑い出す。アリシアリスはますます顔を赤くして、怒ったように背を向けた。 「し、知らないところで、血盟の評判を落とさないようにしなさいよ! そんなことしたら、どこにいても叩きに行くからね!」 そして足音も荒く、一人で宿に戻っていく。 皆がもう一度、声を上げて笑い、それはそのうちにアレクシスたちを励ます声へと変わっていった。 「アレク。ちゃんとしぃちゃんを守ってあげるんですよ?」 ポエットは厳しい顔を作って、念を押すようにそう言う。 「ま、世界は広いけど、冒険者の世界は意外と狭い。どこかで会うこともあるだろう」 握手を交わしたライは、励ましと共に笑顔でそう付け加えてきた。 共にアカデミーで過ごした仲間たちも、それぞれの言葉で見送ってくれる。 「私の下僕に相応しい実力を身に着け、帰還してくることを、期待しているぞ」 「ケーボルに負けるのは、カノンくらいですわよ。──アレク、お元気で。旅の成功をお祈りいたしますわ」 「淋しいっスけど、男が決めたことっスからね。応援してるっス」 「幼子を連れた旅は大変でござろうが、アレク殿なら、成し遂げられると信じているでござるよ」 彼らの言葉に、アレクシスは苦笑を浮かべながらうなずいていた。 「おまえらも、元気でな」 そして── 「まあ、死なない程度に頑張ってきなさいな」 エアルフリードは、素っ気ないほどあっさりとした言葉を向けてくる。 「それと、しぃちゃんが暴走しないように、しっかり見ていてあげるのよ」 「解ってる。また天使連中に感付かれるのも、嫌だしな」 「ところで、まずどこへ行くつもりなの?」 腕組みをしてうながすように小首を傾げた従姉に、アレクシスはふと南の空を見上げる。 「そうだな……まずは、シィの姉ちゃんたちを追い掛けようと思ってる」 「なるほどね。たしかに、彼女たちなら色々知ってそうよね」 「ああ。合流できれば、シィのことも解るだろうし、これからのことも見えてくる気がする。だから……」 シアンに抱かれているシィに振り向き、アレクシスは微笑む。 「まずはあの『いにしえのシーレンの騎士』を追い掛けるさ」 「?」 不思議そうに首を傾げるシィは、後でそのことを説明されて、顔を青くしたという。 そして最後に、アレクシスとシィは、フロウティアと向かい合った。 出会った頃から変わらない、穏やかで優しい微笑みを二人に向け、フロウティアは見送る。 「元気でね」 「フロウティアさんも」 「いってきます」 伝えたいことは全て伝えている。交わす言葉は少なかった。だが互いに向けるその表情は、アデンの空と同じく、とても晴れやかで澄み切っている。 それは門出を祝う仲間と、旅立つ仲間が共有する、少しの淋しさとちょっとした高揚感。 それを胸に、アレクシスはそのまま背を向け、歩き出した。 シアンとリシャールがそれに続き、仲間たちからは別れの声が飛ぶ。 離れていく一行の中で、シアンに抱えられたシィだけは、後ろに振り向き、見送る『仲間』たちを見つめていた。 そしてその小さな手が、大きく天に向かって伸ばされ、振られる。 「いってきます!」 無垢だった少女は笑顔を見せ、高らかに旅立ちを告げていた。 それは、無垢で孤独だった魂と、輝きと自信を放つ心が織りなした、小さな出会いの物語。 そして、これからも続く、様々な出会いの物語── |
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