「ちゃんと着替え持った? 今日行くところは汚れやすいから、多めに用意しとくんだよ」
 朝から賑やかな冒険者たちの宿で、ひときわ賑やかな一角がある。
「持ってます。使い捨てのタオルも沢山詰めました。見てください、この背負い袋」
「じゃあ保存食は? 水袋の予備と麻袋は? それからスピリットショットも多めに持ってる?」
「あ……」
 言われて慌ててバックパックを開けるプリシラ。その中にスピリットショットの姿は見えなかった。
「ほらー、やっぱり何か忘れてるじゃん。ちゃんと昨夜の内に確認しておかないからだ」
「そ、そんなこと言ってもっ……ファイスが遅くまで遊んでるから、付き合ってたんじゃないですかっ」
「……そうだっけ?」
「そうですっ! だいたい何ですか、その髪! ぶさぶさですよ! それに……ああ、ほら。ほっぺにパンくずつけてる!」
 プリシラはブラシを手に取り、寝癖だらけのファイスの髪を梳かし始める。小さく唸りながらも、ファイスは大人しく鏡台の前に座った。
「いいじゃん、別にぃ……どうせ戦闘になったら、ぐちゃぐちゃになるんだし」
「いけません。冒険者といえども、女の子は身だしなみが大切ですっ」
 言いながら、取り出した手ぬぐいで今度はファイスの顔を丁寧に拭いてやる。
 そんな様子を、本日の同行者たちが部屋の入り口から見つめていた。
「あの二人ってさぁ……」
 カイナが呆れたように口を開く。
「なんだか姉妹みたいだよね」
「言えてるな。どっちが姉かは知らないが」
 バインが可笑しそうに笑って同意する。
 その彼らの後ろから、さらに二人の人物が顔を覗かせた。
「ちょっと、いつまで待たせるのかしら? こちらはもうとっくに準備できているのよ」
「あぁら、バインちゃん。今日もいいオ・ト・コっぷりねぇ♪」
 2人の出現に、カイナとバインの表情が思わず引きつる。
「マーガレットさん……今日って、そいつも一緒?」
 その表情のまま振り返り、異様にマッシブな体を微妙にくねらせているバズヴァナンを指さして、そう訊ねるバイン。
 タイトな服に魔導士らしいアクセサリーで身を飾ったマーガレットが、きょとんとした顔でうなずく。
「当然よ。我が血盟のトップナイトなんですから、合同ハントには同行してもらわないと」
「よ・ろ・し・く☆」
 あまり朝には似つかわしくないウインクを向けられ、思わず逃げ出しそうになったバインを、カイナが襟首を捕まえてとどめた。
「これ以上、こっちからの参加者を減らすんじゃないよ。ただでさえ、エアルとフロウティアさんが、盟主に付いていっていないんだからさ」
「あら、盟主さんいないの?」
「『カマエル族の片翼は右か左か?』でエアルフリードともめて、一緒に魂の島まで確認をしにいった。フロウティア殿は、その見極め役だ」
 わき出るように背後に立ったアドエンがそう説明し、マーガレットは可笑しいやら呆れるやら、微妙な笑顔を浮かべる。
「相変わらず、変わってるわね……あなたたち」
「あんたほどじゃねぇと思う」
 ぽつりとつっこんだバインの声は、幸いにマーガレットの耳に届かなかったようだ。
 その代わり、部屋の中から一際大きな声が聞こえてくる。
「プリシラぁ! ボクの髪で遊ぶなぁッ!」
「たまには髪型変えた方が、可愛く見えるんですよ。ほら、これも似合う似合う」
「ポエットちゃんみたいなんだけど……」
「もう少し伸ばせば、メリスさんみたいに、いろいろ変えられるんですけどねー」
「……プリシラ、タッチ」
 すくっと椅子から立ち上がり、代わりにプリシラを座らせるファイス。その手には、ブラシと数種の髪留めが握られていた。
「ファ、ファイス! 私はいつも通りでいいんです!」
「だーめっ」
 焦るプリシラの頭を押さえ、ファイスは悪戯っ子のような笑顔を浮かべる。
「やれやれ……」
 そんな親友同士のじゃれ合いに、バインたちは苦笑しながらため息を吐いた。
 出発は、まだまだ先のことになりそうである。

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