──約百五十年後のよく似た世界。

 アデンの大聖堂で、今、ひと組の男女が誓いを上げていた。
 これからの人生を共に歩んでいくという、永遠の誓いを。
 男はナイトで、女はウィザード。
 彼らは冒険者なのだ。
 無論、この式に出席している者の大半も冒険者である。
 いつどこで命を落とすかも分からない、明日をも知れぬ身の彼らが結婚をするなど、あるいは道化じみたことなのかもしれないが、彼らは言うだろう。
「だからこそ、意味があるのだ」と。
 いつ戦場で倒れても悔いが残らぬよう。そして愛する者の元へ生きて戻るため。その糧として。その力とするために。
「では、指輪の交換を」
 神父役を務める血盟員の言葉に促され、男女は互いの婚約の証であった指輪を交換する。
 その様子を見ながら、列席者の一人である赤毛の青年が小さく呟いた。
「いいよなぁ……俺もあんな美人に惚れられたい」
 彼の隣に座っているローブ姿の青年が、その言葉に苦笑した。
「王子。だったらまず、その努力をしないといけないぞ」
「そういうのパス。俺は果報は寝て待つ主義なんだ」
「その性格も直さないといけないな」
「黙れ、本の虫……お? ありゃダイアモンドじゃないか! あいつ、奮発したなぁ」
 交換される指輪を見て、赤毛の青年は感心したように呟く。
 同じように視線を向けたローブの青年は、別のことに感心が行ったように、すぐに赤毛の青年に顔を戻した。
「そういえば、あのエンゲージリングの由来、知ってる?」
「んあ? 由来とかあんのか?」
「本当かどうか知らないんだけど……古い書物に書かれてる、面白い説があってさ」
「面白い?」
「ああ。ずっと昔、まだダークエルフもオークも、人間と共存していた時代の話なんだけどね」
「そんな時代があったのかよ」
「ちょっとは歴史を学べ、未来の王様。あったんだよ。……それでその時代に、オークの女性に求婚した、人間の男がいてね……」
「オークにっ? ありえねぇだろ、それ!」
 思わず声を上げた赤毛の青年に、周囲から非難の視線が集中する。
 彼とローブの青年は申し訳なさそうに、座ったまま頭を下げて回った。
「声が大きい」
「お前が信じられないことを言うからだ。……で?」
「ああ。その時に指輪を贈ったのが、この国での『最初の婚約』だってことらしいね」
「ふぅ〜ん……」
 まだ信じられないように、赤毛の青年は眉間に皺を寄せて首を捻る。
「なんだってオークの女なんだ……」
「昔のオーク族は、そりゃ美形揃いだったらしいよ?」
「マジかっ!……お前、魔法で過去とかに飛べない?」
「そんな魔法があったら、まず王子と出会う前の自分に忠告しに行くなぁ」
 ひそひそと馬鹿な話を交わす二人を置き去るように、式は粛々と進行していった。
 
 

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